逃避行

逃避行に憧れている。

そういう映画を見るたびに、いつか逃避行をしてみたいと思う。逃避行の王道はもちろん東北の海沿いで、それはもうものすごく逃避行感が出ると思うけれど、僕的には南の方に行きたいと思っている。九州、沖縄。北野武の『ソナチネ』の雰囲気。行き場がなくなった時、北に行くか、南に行くか。その選択は単純そうで意外と本質的かもしれない。ただ単に方向を選ぶのではない。人と土地が持つ大きな力に突き動かされて北または南に足を一歩踏み出す。それはもうその人の自発的な選択ではない。

もう一つ好きな逃避行映画に浅野忠信主演の『世界で最後のふたり』がある。

これは舞台がタイだ。タイもいいなと思っている。南国、東南アジアに住んでいる日本人にはそれなりの事情がありそうだ。北に逃げる人は冬の寒さが大きな障害となる。北に逃げるのはほとんど死にに行くようなもので、外でぼんやりとしていると凍死してしまう。それに比べて南に逃げればまだ生き残るチャンスがあるのかもしれない。外で寝ていても寒さで死ぬことはない。

今すぐ家を出なければいけなくなったら何を持って行くだろう。

服、南に逃げるならかさばる冬服を持っていかなくてもいい。

充電器、パソコン、ポケットワイファイ、寝袋、折り畳み傘。

今すぐ家に火を放ち、南へ逃げろ。